規格の標準化と実装

2017.01.13

規格の標準化と実装とは

 JIS(日本工業規格)によれば、標準化とは、”自由に放置すれば、多様化、複雑化、無秩序化する事柄を少数化、単純化、秩序化すること”と定義されている。

 EPUBのようにグローバルに流通する電子書籍フォーマットは、HTML5やCSS3といったWeb技術の標準規格に依存し、実際に利用するにはその規格を実装したソフトウェアなどが必要となることから、電子出版においても「標準化と実装」という課題が意識されるようになっている。

 

もっと詳しく!

 JISによれば、技術文書として規格を策定・標準化することで、生産者や消費者は、”経済・社会活動の利便性の確保(互換性の確保等)、生産の効率化(品種削減を通じての量産化等)、公正性を確保(消費者の利益の確保、取引の単純化等)、技術進歩の促進(新しい知識の創造や新技術の開発・普及の支援等)、安全や健康の保持、環境の保全等”のメリットを得ることができる。

 国内外にはさまざまな分野、業界の標準化団体があるが、技術やプラットフォーム、ビジネスが国を超えてグローバルに展開する現在において、国際標準に準拠することや、規格作りに積極的に関わっていくことは、ビジネスの継続や拡大という面において重要である。

 

標準化の種類

 標準化は、その合意形成プロセスの違いから、「デジュール標準」「フォーラム標準」「デファクト標準」がある。

 デジュール標準は、ITU(国際電気通信連合)や ISO(国際標準化機構) などの公的な標準化機関において、公正でオープンな手続きによって決められる規格である。例えば、周波数の割当や無線方式などは国際的な影響があり、デジュール標準によって規格が決められる。ISO/IECなどの国際規格、JISなどの国内規格がこれにあたる。

 フォーラム標準は、特定の業界において利害関係のある複数の企業によって組織された機関がオープンな合意形成プロセスを経て業界標準を作る方法であり、近年フォーラム標準の重要性が高まっている。Web技術の標準化を行う W3C(ワールド・ワイド・ウェブ・コンソーシアム;World Wide Web Consorcium)などがある。

 デファクト標準は、市場で多くの人に受け入れられることで事実上の標準となったものをいい、デジュール標準やフォーラム標準のような標準化プロセスを必要としない。

 

標準化と実装

 このような手続きによって策定された標準規格は、その仕様に準拠したソフトウェアやハードウェアが開発され、市場に出回ってはじめて利用することが可能となる。利用できる状態にするために仕様を実際のソフトウェアなどに組み込んでいく作業を実装という。

 EPUB3を例にすると、EPUBの仕様を決める米国の電子出版標準化団体であるIDPF(国際電子出版フォーラム;International Digital Publishing Forum)と、EPUB3の実質的中身となるHTML5とCSS3に関する仕様を策定するW3Cが標準化を行う。

 IDPFは、W3Cで標準化が進行途中のドラフト仕様であるCSS3を参照するかたちでEPUB3の仕様を策定したが、この時点では、これを表示・利用できるソフトウェアが存在しなかった。

 EPUB3、とりわけ日本語の縦書きレイアウトを実際に表示・利用できるものにするためにはこの仕様を実装したソフトウェアが必要であり、ChromeやSafariといったWebブラウザが採用する描画エンジン(レンダリング・エンジン)であるWebkitが率先して実装をすすめた。その結果、縦書きレイアウトを含むEPUB3で作られた電子書籍が表示可能となり、ビジネスとして利用できる環境が整った。

 W3Cの標準化において正式な仕様として勧告するには、実装の有無が重要視されるため、特に標準化と実装は切っても切れない関係にある。

 なお現在IDPFは、出版とウェブ技術を融合するという将来展望に向けて2017年2月1日にW3Cと統合することが発表され、次世代のEPUB要求仕様策定はW3Cに引き継がれた。

[柳 明生 イースト株式会社 20170111]
[内容改訂 20220501]