01 刊行のことば

 日本電子出版協会は、日本の電子出版を構築し、普及・発展させることで社会の健全な発展に寄与することを目的に、30 年余り前の1986 年に設立されました。電子出版の黎明期であった設立時、時代の要請を強く感じ取り、その適切な対応を急務として捉えていた、電子出版に志を持つ者が業種の壁を越えて参集し、今後の情報伝達の在り方を真摯に論議した結果でした。
 その設立から20 余年を経た2008 年に、当協会では『電子出版クロニクル jepaのあゆみ』を刊行し、それまでのあゆみを記しました。その後10 年を経て、電子出版を取り巻く環境はさらにダイナミックに変貌し、それに呼応して当協会もさまざまな取り組みや提言を行い、課題の克服を行ってきたことから、ここに『電子出版クロニクル 増補改訂版』を刊行することとなりました。
 今、30 年のあゆみを振り返ってみると、設立当初の電子出版をとりまく環境は、現在とは全く異なっていることを改めて感じます。当時はインターネットも使いやすいディバイスもなく、ただ、難解なコマンドを要求するパソコンと、CD-ROM ドライブがあるだけでした。そのどちらも今から見れば極めて原始的でありながら高価で、それゆえ電子出版そのものが一部の人の趣味の域を出ないものであったと言えます。
 現在の高度で洗練されたディバイスにより、求める情報が瞬時に安価に得られる状況とは全く異なります。
 そんな環境にあっても、設立メンバーは電子出版の大きな可能性と豊かな未来を独特の嗅覚で正確に感じ取り、その後も電子出版への変わらぬロマンを持ち続け、多くの実践的な活動をしてきました。それらの活動に共通するのは、従来の出版の概念に留まらず、電子出版をひとつの独立したメディアとしてとらえ、その構築と推進に力を注ぐ姿であり、当協会が様々な業種の会員により構成されているのは、そうした姿勢を具現化する上で、大いに役立っていると言えるでしょう。
 本書を通して30 年の当協会のあゆみに触れることにより、皆さまが当協会の役割と使命を再認識され、さらには当協会の目的である電子出版の普及・発展に役立つ契機となることを願っております。

2018 年1 月
日本電子出版協会会長 金原 俊