27 オーディオブック市場の形成について (野村香久)

■オーディオブック市場の始めと今
 本稿では、オーディオブック(デジタル音声朗読コンテンツ)の2008年6月30日現在までの市場動向と共に、その市場形成に至るまでの紹介を行いたいと思います。
 今回、オーディオブックとして紹介する市場は2005年9月8日、Apple Computer, Inc(当時社名、以下アップルと表記)がiPod nano発売と同時にiTunes music Store(当時名称、現在はiTunes Store以下同)内にオーディオブックを新しいライフスタイルとして提言し、発売を開始したときをスタートとして設定させていただいています。

オーディオブックはiPodからスタートした

 それまでにもインターネットを介してセミナーや講演、あるいは作品の朗読を展開していた販売先はありましたが、市場としての発展を考えるとiTunesStore内にオーディオブックカテゴリが使いだされた時をスタートとして話をスタートさせたいと思います。
 オーディオブック市場は2005年9月がスタートということでほぼ3年の年月が経ちました。
 スタート時のiTunes Storeでの日本語コンテンツが約50作品と、大々的な発表とは裏腹に少数のコンテンツでスタートしたマーケットでしたが、6月末現在、iTunes Storeを中心にオーディオブックコンテンツ約3000、市場規模は約5億円前後と伸びてきています(著者予測)。

■市場として動き出すまでの過程
 a)ブレイク作品の登場
 スタート時、50コンテンツでスタートしたコンテンツの中で、初期マーケットの成長の分岐点となった作品が約3作品ありました。一つ目は2005年年末に「電車男」(CD版のデジタルコンテンツ化)、こちらは既に著名度も高く、かつCD作品としても販売実績があった作品でしたので、この作品がiTunes Storeで掲載されると、CDを買うほど積極的では無かった興味層がiPodに入れるコンテンツとして、衝動買い現象がおこりiTunes Store内のオーディオブックカテゴリに立ち寄るユーザーが増えたことがあります。
 二つ目にその年明け2006年1月に登場した、160万部を超えた新書の大ヒット作品、山田真哉:著「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」(発売元:NHKサービスセンター)があげられます。
 この作品は発売以降オーディオブック、2006年8月の「誰も教えてくれなかったジャズの聴き方」(ことのは出版)が出るまで、Top100セールスの1位を獲得し続けた作品です。その勢いは年間1万部を楽に超える勢いで売れ続け、各社の参入を促した要因になりました。
 三つ目に、文芸作品の朗読研鑽を続けてきたアイ文庫のコンテンツが同時に市場に受け入れられたのも一つ大きな成長要因になりました。アイ文庫は青空文庫のパブリックドメインを利用して市場が立ち上がる5年前から文芸作品の朗読コンテンツを自社で制作を行っていました。その中、夏目漱石や芥川龍之介といった著名な文豪作家の作品をiTunes Store展開したところ、「我が輩は猫である」(朗読時間約21時間、発売価格2700円)など文庫本、書籍の価格帯とは違う、オリジナルのデジタルコンテンツとしてユーザーに受け入れられたことにより、改めてオーディオブックコンテンツという新しいコンテンツと市場が認識される結果となりました。

 b)独立系販売店、各音楽販売、電子書籍分野での取り扱い増加
 そういった流れを受けて、2007年を中心にFeBe(オトバンク)など独立系の販売店の誕生や、OnGen、LitesnJapanなど音楽配信サイトでの取り扱いも始まりました。また電子書籍の分野でも従来のMP3配信に変わりWMA形式で本格的に市場展開したパピレスなど、販売店およびコンテンツ制作を行う会社が数多く出てきました。

 c)売れ筋の確立による、ジャンルの加速化
 その中で、iTunes Storeでのオーディオブック動向から売れ筋、購入層がわかりはじめ、特定ジャンルの量産化が一気に加速しました。その層とは20代後半~50代前半の自己啓発心旺盛な男性サラーリーマン層で、売れ筋作品も語学学習、自己啓発、ビジネス、落語といった特定のジャンルに偏っていきました。

■今後のオーディオブックの動向予測
 今後のオーディオブック市場はまず、技術進歩による販路の拡大、PC音楽配信市場から携帯電話市場、テレビダウンロード配信、ゲーム機など幅広いジャンルで展開されると考えられます。
 一方、コンテンツも販路の広がりの元、現在の特定デバイスのユーザーに合わせた作品だけではなく幅広い作品を供給できるかどうかに今後のオーディオブック市場の成長はかかっていると言えそうです。

◎野村香久(のむらよしひさ)ことのは出版からJEPAに参加