新しい著作権秩序を

1997.09.01

インプレス  塚本 慶一郎

 「CD-ROMの制作会社のうち、まともに著作権料をはらっているのは一部に限られる
のじゃないですか」とは、先日あるマルチメディア関係の団体での会話だ。この話
の主はCD-ROMを作っている会社すなわちコンテント・メーカーに属するのだが、
彼が担当しすでに発売済の製品で使っている音楽や他の権利の処理を実は完全には
終えていないらしい。

 別にさぼっているわけではないだろうに、なぜそんなことになるのかというと、
CD-ROMという新しいものの権利処理について著作権団体が古い規定しか持っていな
いことが原因だ。現在のところ、むりやり他用途の規定を適用しようとして、制作
会社と意見が食い違ってしまう。制作会社としては、音も絵も出るマルチメディア
・タイトルの著作権処理を文章/静止画/音楽/動画それぞれの個別著作権使用料率
を「積み上げ方式」で払うわけにはいかない事情がある。合計したロイヤリティが
非常に高額になるからだ。だからといって議論していてあまり発売を延期するわけ
にもいかないから、見切り発車的に双方主張が平行線のまま発売に踏み切ってしまう。
したがって、お金は払いたくても払えないのだという。

 この人によれば、こういう状況は他社でも結構あるとのことだ。

 先日もこういった話をさらに証明するような事件が起きた(8月18日日経新聞)。
マルチメディア制作会社「オラシオン」が、中島みゆきのCD-ROMなどを発行するに
当たって、通常JASRAC(日本音楽著作権協会)が仲介する権利処理を、仲介抜きで
直接音楽出版社(音楽著作権の所有者)と交渉した。JASRAC提示の定価の60%になる
著作権料をまともに払ったらとてもタイトルは制作できないと、思い余ったオラシオン
側が著作権管理会社と直接交渉をし、結果としてその何分の1に引き下げることに
成功したという。もちろんJASRACは直接交渉を認めたくないので無断使用だと主張して
いる。この議論はいずれJEPA会員にも関係してくるはずだ。

 JEPAの会員は、自社が管理している著作権だけを使って製品を作っていることが
多い。特に文章を主体として、しかも書き下ろしの場合、マルチメディアといっても
従来の書籍等と同じような感覚で、著者と出版社の契約関係をCD-ROM製品でも延長し
やすい。したがって、上記のような問題には今はそれほど直面しないので、切実な
問題意識に乏しいかもしれない。しかし世の中の電子出版の流れは、大容量化マルチ
メディア化に向かっている。CD-ROMからDVDなどへの変化、ネットワークの普及と
テレビ型エンターテインメント系コンテントの発生がいい例だ。

 JEPAは著作権者側に立つのか、それともマルチメディア制作において他者の著作を
利用する使用者側に立つのか、立場によって見方が分かれるかもしれない。しかし、
どちらに立つにしろ、大切なのはこれからのマルチメディアの特性を理解している者
が、旧来の論理、経験、慣行に縛られずに権利者と使用者の双方の橋渡しをすること
だと思う。

 それでなくともまだ市場として確立していないCD-ROMなのだが、このままいくと
完全オリジナル制作のものしか発行できなくなる可能性もある。新メディアについて
の権利者・使用者の相互理解が必要だ。それは新市場が活性化するような積極的な方向
でなくてはならない。手遅れにならないうちに早く手を打つべきだ。