デジタル時代の今こそ出版隣接権の確立を !!

1998.05.01

サイビズ  筒井 誠

 日頃の日本電子出版協会での活動以外であまりお話していない事項につい て報告致します。4年前から前任の合庭委員に代わって文化庁著作権委員会 マルチメディア分科会委員として、著作権にかかわる諸テーマについての 審議に1月に1回のペースで参加している。なにせ斯界の錚々たる大学教授 、弁護士といった法律の専門家のほか、各専門団体から派遣された達人たち が丁々発止の論争をかわすので、生半可な知識ではとても追いつかない。 例えばデジタル放送にかかわる規整とか、プロテクト解除装置の規制につい ての論争にはついていけないが、反面、データベースや電子出版、図書館で の私的利用等については積極的に発言し、現場の実状とか、こうあってほし いという意見は数々申し述べてきた。
 現在、最も深くかかわっているのは同委員会の中に設けられた7人で構成 するデータベース検討班の一員として、WIPO(世界知的所有権機関)の 外交会議で提案された相当な投資をして製作されたデータベースの保護を 目的とした「データベースに係る知的所有権に関する条約草案」を日本では どう考えるかを文化庁国際著作権室でまとめて、WIPOに報告する草案 ならびに論点整理に加わった。
 この問題は当初、創作性のないデータベース(いわゆる著作権の保護を 受けないもの)に「相当の投資」をしたものに対しても権利保護を与えると いうEUを中心にしたスイ;ジュネリス権(特別な権利)を各国で認めるか どうかということにあった。 データベース検討班の論点を整理してみると、
①データベース自体に創作性のない場合の保護については、データベースの 価値は年々高まって来ている が、現行著作権法上のデータベースの著作物 や編集著作物に当たらないものについては、これを複製することは自由で あり、こうしたデータベースに対して、新たに何らかの保護を与える必要 があるかどうかの検討。
②相当の投資のあるデータベースを創作性の有無を問わず保護することにつ いては、データベースの製作にあたり投資をした者に対して、「相当の 投資」をして製作したデータベースのコンテンツの全部または相当な部分 の抽出又は利用についての許諾を特別な権利として認めることの検討が 国際的に行なわれているが、これをどう考えるか。
に大別され、②の相当の投資に権利が与えられると他国のデータベースを 利用する際に、現在自由に利用できていたものが利用できなくなるのではな いか、また日本では、多くのデータベースについてこうした新たな保護と 現行の著作権法による保護が重複しうるため、その影響は大ではないかとい う点に議論が集中した。
 それにしても、もし創作性のないデータベースの投資に何らかの保護を与え るとなると、従来の出版物にみられるように、またこれからのデジタルデー タの製作者の相当の投資に対しての保護が働かない現状との間の矛盾が出て くることが考えられる。現行の著作権法では出版者への隣接権が認められて いないことも考え合わせると、EUなみにデータベースコンテンツ制作者に 対して出版隣接権をぜひ設定してもらいたいものと考えている。
 今年1月、東京で開催された第4回IPA国際著作権シンポジウムに参加 して、最終日の大会決議案として上程された「出版者の著作隣接権に係る 日本書籍出版協会の主張を支持し、ネットワーク上での電子出版には多大な る投資が不可欠であることに留意し、電子出版物およびデータベース制作者 としての出版者の排他的権利に関し、国際的に、地域的に及び各国内におい て共通な法的保護を緊急に要求する」が採択されていることも心強いかぎり です。
 終わり