What……, if……?

1999.06.01

文藝春秋  藤田 瞭彦

 現実から少し離れて、電子書籍が普及した時代のことを想像してみたい。どんなこと が可能になっているのだろうか。
 欲しいときに欲しい本が手に入るという環境になれば、出版社が編んだ全集や叢書など を買うよりも、むしろ自分の好きな作家や作品だけをまとめて「お好み選集」を作るこ とが行われるのではないか(電子書籍関係者は一丸となってこれを流行させるべきだと、 まじめに思います)。フォントや背景などもカスタマイズできるようになれば、その楽 しみは一層増すだろう。
 さらに、これまで出版される機会が限られていた小品、たとえば短篇小説、詩、短歌、 俳句などが改めて注目されるようになるかもしれない。そうなれば、誰の吟詠、朗読か ということも選択の新しい要素となりうるだろう。
 新しいといえば、読書用のBGMというのはどうだろう。一定の読書スピードを維持 するためのリズムやテンポがページに貼り付けられていたり、ある語句に特有のメロディ がシンクロしていて暗記の役に立つとか、あるいは巻頭で音楽を流してその読書に相応 しい精神状態になってもらうといった利用法も考えられるのではないか。
 記述の順序を崩せない、いいかえればもっとも書籍的な小説などは、どんな電子化が 行われているだろう。たとえば推理小説であれば、謎の解決までを10段階に分け、今の ページは何段回目にあるかをインジケーターで表示するとか、個々の内容に応じた工夫 をせいぜい凝らす以外にないと思うが、論文、評論などは、初めは本論部分だけを表示 しておいて、「たとえば」「ところが」「ちなみに」などの例示、反対例、補足などの 部分はすべてリンクで呼び出すようにしておくと、まず本論を頭に入れ、必要に応じて 枝葉の部分を読み、全文を読みたい場合には「全文表示」を選択することで、その論の 構成までしっかり頭に入るだろう。これは書く側、読む側の双方にとって利点になるの ではないか。
 ある時代を特定の人物を通して眺めると、歴史の面白さ、メカニズムがわかってくる ということがある。たとえば、司馬遼太郎の「竜馬がゆく」を読んで、幕末という時代 に興味を持ったとする。そういった時に、「司馬作品の幕末物」、あるいは「他作家の 幕末物」「幕末の主要人物」といったキーワードで該当する作品が検索でき、オンライ ンで購入できる環境があれば便利だろう。このようなユーザーにとって使いやすく親し みやすいオリエンテーリングサービスというのは十分商売になるだろう。本来ならこれ は出版社の販促業務の一環であるはずだが、アイデアとやる気に溢れたサードパーティ の活躍を許すことになっていようとは……。
── 絵空事ばかり並べて、と笑われるかもしれませんが、時々夢想することのいくつか を並べてみました。新しいビジネスチャンスがごろごろ転がっていそうだと思ってもら うことも、電子書籍を普及させるためには必要ではないか、と愚考しつつ。