文字への想い

1999.08.01

図書印刷  梅津 幸一

 「当社の工場から鉛の活字がなくなって何年経つのだろうか」と、ふと記憶の中を探す。 思えば、「紙面がザラザラしている」と、お得意先の若い編集の方からポツリと言われ てから、しばらくたって無くなったようだ。
 その時の書籍が、鉛の活字を使った活版印刷物であった。「活字は美しい」と先輩諸氏 に教え込まれていたため、奇異に感じたことを覚えている。 コンピュータで見る文字も、当初から「汚い・読みにくい」と言われていた。 こちらの方は、あきらめ半分と、アウトラインフォントが出て来たため、解決される ようだ。
 あとは、高精細の表示機器を待つだけである。この十年、コンピュータを驚異的に進化 させて来たメーカーさんに期待しよう。
 昨年、「JIS文字では漢字数が不足である」との議論が華々しかった。まもなく、 第三・第四水準も出るようである。漢字数を六万字集めた、いや八万字になった、など いろいろな方からの発表もあった。 印刷会社にいるためか、「漢字は何文字あるんですかネー」と良く聞かれた。答えよう がなかった。教科書も得意としている当社には、「このような字は間違っています」と いう誤字も正しい文字(?)としてあるし、筆順の文字も画数分持っているのである。 さらに、出版社さん毎(編集長さん毎)に、字体を揃えている。
 十数年前に、映像のテロップ用文字システムの開発に参画したことがあった。当時は、 版下を作成し、フイルムで反転させ、映像に焼き込んでいた。それを、パソコン上に 文字を表示させ、信号を取り出し、映像に組み込もうという仕掛けである。書籍での 素晴らしい文字でも、細かったり、読みにくかったり、なかなか映像になじまなかった。 書籍では白地に墨でのシャープさが要求されるのに対して、映像では文字自身のアピー ルが重要なのだと、一人納得したことを覚えている。現在使われている中では、NHK の文字がまずまずと思っている。
 今のコンピュータ文字は、あいかわらず書籍文字から出発している。 さらに、処理ソフトも単純である。全体を縮小すると、そのままの比率で小さくなって しまうため細くなってしまう。同じ母型を使う活字ですら、小さくする場合は、読みや すいように少し太くしていたのに、である。 CRT・液晶画面で使用する文字には、きっとそれに合った字体・字形があると信じて いる。インキを使用する減色混合での文字と、光の加色混合で表現するものとは、しょ せん違うはずである。 今後のテクノロジーが解決してくれると念じている。