A4の壁

2007.07.01

旺文社  生駒 大壱

 パソコンなどのデジタルメディアの普及とともに紙の消費量は減るというその昔の予測は大いに外れ、紙の消費量は減るどころか、伸び続けている。パソコンで作成した文書やメールなどをプリントして読むことが1つの要因だ。
 ある会社の調査によると、デジタルデータの量がA4・1ページを超えると人はプリントして読むことが多くなるらしい。実際私自身もその傾向があり、一日中パソコンに向かうことが苦にならない生活をしているが、じっくり文字を読む時はどうしてもプリントアウトしてしまう。
 意識して自分のデジタルメディアの見方をチェックしてみると、メールにせよ、ブログによ、契約書にせよ、PDFファイルにせよ、PCや携帯の画面で長い文書を読むということをしていない。モニター上で長い文章を読むときは、要点だけを拾って読んでいる自分に気がつく。
 これは、わたしだけのことなのかはわからないが、電子出版というものを考えるときに大きなヒントとなると思う。現状、広義の電子出版商品・サービスで普及しているものを見ると、短時間でサッと見るものがほとんだということに気がつく。いくつかの例を挙げると、
 地図 → カーナビ
 手紙 → メール
 辞書 → 電子辞書
 日記 → ブログ
 この要因は何なのか? 光透過・コントラスト不足といった液晶やモニターの画面特性によるものなのか? あるいはそもそもパソコンや携帯、PDAというデジタルメディアに対する人間の「習慣」の問題なのか? それとも単に世代の違いによるものなのか? その答えは複合的なものだろうと思うが、この壁は結構高いのではないかと感じている。
 最近、コミックの電子出版が大いに盛り上がっているが、これはある程度短時間に読める、細かな字を追わなくて済むというコミックの特性がこの「A4の壁」を超えることを可能にしたのだと思う。私の携わる教育出版の領域では、学習書や参考書などの電子出版がなかなか立ち上がらない状況である。文芸書や実用書関連でも徐々には浸透しているもののなかなかブレイクしない。
 そういうなかで携帯小説というジャンルが出てきたのは、お!これはと思う半面、もしかしたら1回あたり読んでいるのはやっぱりA4くらいなのではという気もする。
 この「A4の壁」を巡る挑戦は続く。壁をいかにして乗り越えるかを色々工夫することでブレイクを狙う直球路線か? あるいは壁を回避して、読むのではなく楽しんだり、眺めたりという変化球を狙う路線か? ニンテンドーDSでの学習系ソフトのヒットは、この後者の路線のヒット事例と考えることもできる。電子出版の業界に身を置く私としては、変化球も投げないといけないが、やはり直球でも勝負してみたいと思う。