混迷の時代だからこそ面白い

2008.01.01

大日本印刷  池田 敬二

★電車の中での市場調査
 出版不況と言われて久しい。身近なところで市場調査できるのは電車の中。電車の中吊り広告も出版物の広告が圧倒的に多いことが示しているように電車による移動時間と読書との親和性が高いことは長年言われていた。しかし、ここのところ目に付くのは携帯電話でメールや携帯サイトにアクセスしている人、そして携帯型ゲーム機を手にしている人である。iPodなどのポータブルオーディオプレーヤーで音声コンテンツに耳を傾けながら目を閉じている人も多い。電車の中で乗客の過ごし方をウォッチしていると「時間」と「お金」をめぐって、出版物、携帯電話、ゲーム機、ポータブルオーディオプレーヤーが戦っているのが見える。
★“クロスメディア”に刺激されはじめた市場
 最近では出版界にとっても携帯電話やゲーム機も“敵”なだけではないという現象も起こりつつある。ここ数年、出版界で話題になっている「ケータイ小説」の例をあげるまでもなく、デジタルで制作された作品が紙のヒット作を生み出す現象は、もはやブームというより一つのジャンルを形成したかのような評価もされはじめている。携帯電話・PHSの加入者数が1億人を突破し、普及率がほぼ頭打ちとなったほどに全国のあらゆる世代に浸透したことが大きい。今のところ「ケータイ小説」は若年層に爆発的に火がついているが、もともと活字メディアが身近な高年齢層にも新たな「ケータイ文化」が生まれてくると出版界にとっても刺激になるのではないかと思う。
★ニンテンドーDS向けコンテンツ配信事業
 「DSvision」 日経MJ2007ヒット商品番付で任天堂のWii&DSが東の横綱にランキングされた。
 Wiiは幅広い世代を取り込み、402万台、DSは2034万台(エンターブレイン調べ)に達した。ゲーム業界では限界普及台数とされていた2000万台を突破したことで様々なビジネスの仕掛けがはじまっている。
 2007年11月に弊社が株式会社am3に資本参加し、ニンテンドーDSをプラットフォームとした映像・出版コンテンツの配信事業を開始すると発表すると大きな反響があった。
 「DSで爆発的に読まれた出版物が紙の本でもベストセラーに」という事例が頻発できれば出版界にとっても追い風となる。様々なライフスタイルが生まれ、読書スタイルも多様化されている。日本ではまだ未成熟なオーディオブックもクロスメディアな市場拡販が期待できる。携帯電話を発信元にした新たな読書文化もその萌芽は見えはじめている。
 “混迷の時代だからこそ面白い”と自分に言い聞かせて今年も様々なチャレンジをしていきたい。