日本語に於ける知の循環の崩壊(ジャパニーズ・クライシス)

2010.12.01

JEPA 事務局  三瓶 徹

 今年は電子書籍元年ではなく、電子書籍解説本元年だとか、電子書籍セミナー元年だとおっしゃる方もいらっしゃいますが、電子書籍フィーバーが我々に危機意識を与えた点は良かったと思います。
 門前で眺めていますと、電子出版への期待はあるものの、年間8万点近くの書籍の中で、電子出版も同時に刊行されるのは辞書と医学書の一部ぐらいでしょうか。哲学、歴史、社会科学、自然科学、技術・工学、産業、美術・芸術、言語、文学、児童書、学参書、総記と分類される本の多くは紙のみ。電子出版と言われても、出版データは何処にあるの?保存されている出版データのフォーマットは?と、課題ばかり。
 例えば、京都大学図書館には電子ジャーナルが6万タイトル、電子書籍が24万タイトルありますが、殆どが英文。日本の電子書籍は2000タイトル程度。知の集積である筈の大学には日本語で読める電子出版物が無いのです。米国の大学では2020年には90%が電子出版物になると言うのに。研究や仕事には圧倒的に電子出版が便利です。知を生み出す大学で、日本語の本が無くなる。日本語に於ける知の循環の崩壊(ジャパニーズ・クライシス)です。
 蘭エルゼビア社は世界に7,000人の従業員を擁し、2,000誌の雑誌を発行し、教科書を除く全書籍を電子書籍にて提供している。独シュプリンガー社は、毎年3,500冊の新刊書を発行しているが、全て電子書籍で発行し、多くの書籍において印刷、製本、在庫をやめて、紙の書籍は1部の注文からプリントオンデマンドにて提供する方式としたそうです。その結果、日本の国立大学だけで欧米の出版社に払っている雑誌代は約121億円だそうです。
 そう、岩波新書の「本は、これから」を読みました。電子書籍解説本フィーバーとは一線を画した1冊、多くの論客を束ねた岩波さんの力量と品位が感じられました。