電子出版は、出版とインターネットの間に生まれる

2012.01.01

インプレスR&D  井芹 昌信

 冒頭から私事で恐縮ですが、思えば、これまで私は、「電子出版」に期待がかかるキーワードのほとんどすべてに、編集という立場で関係を持ってきました。パソコン、SGML、DTP、BBS、CD-ROM、ケータイ、インターネット、などなどです。そしてその度に、みんなが期待する電子出版ではなく、別の形のビジネスになっていったのでした。
 しかし、その苦節の中で革新の芽は確実に育っていました。日本で最初の電子書籍ストア「パピレス」を立ち上げられた天谷社長は「電子出版はデバイスとプログラムのすべてが揃わないといけない。最初は文字だけだったが、新しい技術やデバイスが出る度に少しずつ改善されてきた」と言われていました。同感です。
 いま、KindleやiPadの上で電子出版ができるのは、eペーパーや液晶の進化だけでなく、SGML>HTML>EPUBのような進化が必要だったし、デジカメの高解像度化が必要だったし、流通路としてのインターネットの整備などが必要でした。これらのすべての底上げが、電子出版を作り出していると言えます。いま思えば、電子出版はかなり高度な技術を要求するアプリケーション、またはシステムだったのです。
 電子出版の中核技術は、出版の技術(特にDTP)とインターネットの技術(特にWeb)が組み合わされてできています。たとえばEPUBは、Web技術をベースにして、本のようにパッケージして流通できるようにした技術です。また、そのWebのレイアウト指定に使われてきたCSSは、出版の組版機能を取り込むべくCSS3へと進化中です。そして、現在のDTPソフトの代表であるアドビ社のInDesignは、EPUBを出力することに注力しています。この技術的背景がある以上、電子出版市場は出版とインターネットの間に形成されると予見できるし、この2つをつなぐものになると予想できます。
 別の言い方をすれば、電子出版は出版業界だけのものではないとも言えます。インターネットのプレーヤーも電子出版のビジネス可能性に大いに期待しています。その証拠に、米国ではインターネットのメジャープレイヤーであるアマゾンが市場を牽引しており、日本でも楽天やヤフージャパンなどが力を入れ始めています。
 市場は、出版業界が彼らと競争し、協業していくことを期待してくることでしょう。その中で、出版業界の本来的な役割は、印刷書籍か電子書籍かを問わず、多くの優れた著者をデビューさせ、多くの優れた企画やコンテンツを作り出すことだと、改めて思うのです。