書籍の電子化の先に

2012.08.01

日本マイクロソフト  加治佐 俊一

 マイクロソフトは、電子出版に限らず、さまざまなビジネスにおいてソフトウェアやサービスを提供、あるいは、デバイスやクラウドのプラットフォームとして活用される供給側にあります。私は、供給側の立場で、技術に関することを語ったり書いたりすることが多いのですが、書籍に関しては、個人的には、書籍を利用する側にいることが多いので、このコラムでは、利用者として感じていることから書き始めたいと思います。  本のたくさん詰まった本棚を見ると思うことがあります。特に、自宅や会社にある本棚には所有しているたくさんの本が並んでいますが、なかなかうまく管理や検索ができません。所有している多くの本が電子化されて、いつでも検索による情報の活用が可能であったら、たいへん便利です。私にとって、本は非常に価値の高い情報で、本には、著者の強い想いや論理、そして、伝えたいことがわかりやすく記述されており、良質で知が凝縮された情報で溢れています。
 一方、インターネットでは、技術の進化とともに活用が進み、さまざまな情報で溢れており、情報検索や活用が便利に行われるようになりました。昨今は、「ビッグデータ」というキーワードが流行りですが、さまざまな種類の構造化されていない莫大な量のデータまでも、格納、検索、分析などが行われ、分野の異なるデータセットを突き合わせることで、新たな発見やさらなる進化につなげられるようになりました。データが構造化されている、されていないを問わず、莫大なデータ量をもろともせず、電子化されていることにより、ビッグデータのさまざまな技術を活用することができます。
 本棚の話に戻ると、本ならではの良質な情報が、一度は自分の頭脳の中で認識・理解されているものであるにもかかわらず、必要な時に、求めている情報を取り出すことが、困難な状況です。所有する本の数の増大とともに、何かの情報を探そうとした場合、探している情報が記述されている本の中のページではなく、あるべきはずの物理的な本そのものの発見が困難なことさえあります。本が電子化され、その情報に自由にアクセスさえできれば、インターネットで行われているような情報の活用が可能になり、良質な情報がさらに活用しやすくなる。先ず、所有している本は、適切に電子化されて、管理されたうえで、その情報に自由にアクセスができるようなると、利用者としては、本当にうれしいことで、もっとたくさんの書籍を所有したくなります。
 日本での電子書籍の普及は、北米と比較すると遅れています。日本特有の課題として、外字をなくすための文字コードやフォント、電子書籍のための標準のフォーマットなどがありますが、現在、その多くが解決に向けて進んでいます。技術だけでは解決できないことも多々あるようですが、電子書籍化を書籍という枠組みに閉じないで、現在も日進月歩しているインターネットやビッグデータの技術の進化と、うまく協調することが大事なことだと思います。電子書籍化は、単なる紙の本の置き換えではなく、電子化された情報を最大限に活かした高い利便性による新しいエクスペリエンスにつなげられると思います。