出版社と電子図書館

2015.09.02

日外アソシエーツ  山下 浩

○電子図書館
 2005年にかけての「平成の大合併」により、自治体数は半減し1800を切る数になった。時期を同じくして図書館の統廃合、指定管理者制度導入など始まった。図書館の資料購入も当然のことながら“統廃合”され、例えば本館・分館あわせて5館ある自治体で、昔は各々の図書館で選書・購入されていたものが、自治体全体で選書決定されるところも多くなってきている。極端な場合(特に読み物・実用書でないもの)は、本館で1冊買って分館は相互貸し出しで、となる。

 電子図書館ではどうだろうか。物理的な本がない出版物が電子図書館システムによっていろいろな条件設定(期間、契約部数など)で契約されるわけであるが、出版社にとっての本音を言えば、紙と電子で今まで(書籍)と同じくらいの売上になるのだろうか、というところである。読者、図書館利用者にとっては読める媒体、システムの選択肢は多い方が便利で良いのであろうが、出版社側にしてみると対応がなかなかそうはいかない。図書館、利用者の側からの費用、利便性などは良く論じられるが、出版社にとってという話はあまり聞いたことがない。とにかく今は利用者が求める電子書籍とは、図書館が持つべき電子書籍とは、に応えて出版社は提供していかなければならない。

 コンテンツの面でいえば、本来の図書館の役割の一つである「調査・研究、資料保存のため」の蔵書を電子図書館の中にどう構築していくのかということもある。電子図書館サービスのためのデジタル化、原資料保存のためのデジタル化、特に地域によって温度差のある郷土資料のデジタル化などは、「国立国会図書館デジタルコレクション」などにまかせて国家予算で電子資料化してもらって、全国の図書館に配信したらどうだろう。と無責任に思ったりする。新国立競技場に数千億という話からすれば・・・。

 2000年に「2005年の図書館像~地域電子図書館の実現に向けて」(地域電子図書館構想検討協力者会議 文科省)という報告書が出された。「将来における地域電子図書館の「具体的なイメージ」を分かりやすく提示するため,西暦2005年ごろの「あるひとつの公立図書館」を想定し,その状況やサービスの内容を具体的に描写する形をとった。」ものであるが、お役所の報告書にしてはくだけた内容になっている。この中に出てくる“電子書籍”は今のものとはちょっと違うものだが、今一度、国の方策として電子図書館の目指す具体的イメージを共通認識(指針)としてまとめるのも良いのではないか。ただし特別地方交付金も付けて。

 この春に楽天が世界最大規模の電子図書館サービスプロバイダ・米OverDrive社を買収し、日本でも図書館向け電子書籍サービスに参入するかというニュースが飛び込んできた。日本の図書館においては、TRC、丸善、紀伊國屋書店など電子図書館サービスを展開しているが、ここに楽天OverDriveがどう切り込んでくるのか、これないのか、相乗効果で良い方向へスピードが加速すれば良いのだが。

○私の情報リテラシー能力
 「情報リテラシー」米国図書館協会によると「情報が必要とされるときに情報を“効果的”にそして“効率的”に、1.探し出し、2.精査し、3.使うことができる能力」と定義されている。

 私のように学校で情報教育を受けていない世代は、ネットというだけで腰が引けてしまう人もいると思うが、どこにでもついてくるスマホ、モバイル端末、TwitterとSNSに振り回されて、本を読んでいる時間がないという人も多いのではないだろうか。端末・通信インフラ(ハードウェア環境、WEB環境)の進歩・変化は日々著しく、物心ついた頃から周りに当たり前に情報環境があり、道具として日常の中で使いこなしている若い世代とは、そもそも感覚的に違っているということを実感する。

 少し前(!?)までは図書館の利用というといたってシンプルで、図書館には本があって読んだり調べたりする場所であったのが、いまでは情報センター、メディアセンターなどと呼ばれ、あらゆる媒体の情報があるところで、自宅からでもいろいろな情報サービスを利用できる。大学においても、なんとかセンターが学生を集めるための目玉となっていて、図書館にとって重要な仕事の一つであったはずのレファレンスも対面ではなくメールでどうぞ、ということになっている。

 G**やY**といった情報検索システム提供者は、難しい仕組みや膨大なデータ分析などは裏に隠して、利用者にはなにも意識させずに使わせることが良いことという流れになっており、利用者は自分が何を対象にしていて、どのくらいの範囲の情報が調べられているのかもわかっていない。それでも十分調べた気になっている困った現実を見ると、情報に動かされ、情報に騙されないようにしなくてはと改めて思う。「ネット検索で引っかからない情報(文献)は無いのといっしょ」ではなく、「もっとあるかもしれない」と意識することも大切ではないだろうか。

 アトムやドラえもんの世界が現実になってきているものもあるこの頃である。電子図書館では情報弱者への情報リテラシー教育も担ってて欲しいものである。