権利クリアランス業務の積み重ね

2017.04.03

ユニフォトプレスインターナショナル  太田 智徳

 2年前に「フォトエージェンシーの今後の役割について」というタイトルで写真の権利者と使用者の仲介をいかに両者の利益になるように円滑に進めていくかということについての決意や目標を述べさせていただきました。今回はそれから2年間で業務の現場でどのような変化があり、また新たな課題が発生したかについて実務経験を通じた考察を以下に述べていきたいと思います。

 そもそもフォトエージェンシーはカメラマンや通信社などの代理としてメディア(出版・放送等)や顧客に写真の使用許諾権を委託販売していますが、顧客の要望する写真ありきで権利者を見つけ出して使用許諾を取得する業務も少なくありません。今は著者や編集者、制作者がウェブ上で必要なアタリ画像(サンプル)を探し出すことが容易になったため、出版や販売を可能にするための使用許諾の取得、その他の権利クリアランスや高解像度データの入手という業務をいかに円滑に行うかがポイントになってきております。

 この2年間はまさにこの権利クリアランス業務の積み重ねでした。おりしもデジタル書籍、特にデジタル教科書や教材の制作が急激に増えた時期でもあったため、画像だけではなく映像や音声、文章などの新たなコンテンツの権利クリアランスが加わり、使用許諾先も国内外の法人や個人、官民組織と多岐に渡りました。そして映像が加わったことで映り込んでいる人や団体など許諾先の種類や数も相当増えました。

 また以前と比べて使用者側の権利意識(権利処理をしなくてはならないという認識)が高まり、そこはもう当たり前の共通認識になっていると同時に、権利者側も以前のようにデジタル使用は一律ダメだとか、使用媒体の種類や使用期間に単純比例して料金を加算するといったことも大分減ってきたように思います。申請と許諾の関係が件数の増大とともに大分こなれてきた感じがします。特に海外の大手出版社や新聞社などのライツ管理部門は、世界中の利用者からの申請をスムーズに処理するために受付ウェブフォームを充実させ、わかりやすい価格体系を作り、申請から許諾までの期間も短縮されました。

 また厄介だった権利者不明コンテンツ(オーファン)の処理に関しても、昨年よりオーファンワークスの実証実験が行われ、現行の裁定制度よりも時間や手間がかからず使用可能になる運用が始まりそうです。

 このような変化の中、フォトエージェンシーとしてさらにクリアランス業務を積み重ねて行きながら、使用者側に対してはまずはトラブルが起こらないようにすること、許諾に至るまでの期間を短くし、コストが軽減できるように代替コンテンツの提案などフォトエージェンシーとしてのネットワークとノウハウを生かした方法でコンテンツ入手から使用許諾までの一連の業務をバックアップしていきたいと思います。

 また新たに、契約先のコンテンツの一部をクリエイティブ・コモンズライセンスに登録し使用者が利用しやすくなる試みを実施していきたいと思います。

 ウェブ上での検索が容易になった今でも、まだまだ貴重なコンテンツがあまり表に出でず生かされておりません。特に海外文献や美術館所蔵品画像などの学術利用を促進して行きたいと思います。そしてこの試みはコンテンツの正規利用の広がりにより最終的に権利者の利益に繋がると考えております。

 今後も益々デジタル時代におけるコンテンツの利用形態やそれに伴う権利クリアランスの手法も変化をしていくと思います。何か良い仕組みやシステムを作れれば良いのでしょうが、どちらか一方の利益にそくした考え方では成り立たないと思います。最終的には人と人の問題ですので、現場で実務を行っていく者として使用者と権利者の利益に少しでも貢献出来るように真摯にこの業務に努めていきたいと思います。