コンテンツ産業の変革

2020.09.01

パピレス  天谷 幹夫

 過去のキーパーソンのメッセージに目を通してみましたら、私がこの原稿を書くのも2001年から初めて都合6回目になります。今までの書込みを見ると、コンテンツに関することが、ほとんどでした。もともと、2006年7月の「次世代のコンテンツを作ろう」で、「今後10年以内に紙に代わるニューブックが一般に普及する可能性が高いことが予測されます。」と言っていて、2013年2月の「新しき器には新しきコンテンツを」で、「昨今のスマフォやタブレットへの普及がまさしくそれに当たると思います。」と言っています。それで、2015年5月には、「次世代コンテンツの萌芽」で、「50年で入れ替わる歴史に習うならば、1995年頃始まったインターネットメディアが紙のメディアを席巻するのにあと20年は必要でしょう。」すなわち2035年には、次世代コンテンツの時代だと述べています。自分でも何故ここまで新しきコンテンツにこだわるのかと不思議になるくらいですが、良く考えてみるとそれだけ危機感が強いのだと思います。

 1450年のグーテンベルグの活版印刷発明以来、紙というメディアに裏付けられた出版産業は、570年間営まれてきましたが、今となっては、紙に代わるスマフォなど新しいインターネットメディアの時代に置き換わりつつあることは、誰も否定できないでしょう。ただ、過去の歴史を見ると、その変革の時代のさなかにいる人たちには、なかなかその変革に気付かないのが実情です。後になって、歴史学者が勉強し定義づけるのがお決まりのパターンです。それで、私が恐れるのは、我々出版産業に携わる者が気付かない、あるいは気付いているが、あえて見ようとしないコンテンツの変革が、すでに起こっているのではないかということです。

 メディアの移り変わりについては、「新しき器には新しきコンテンツを」を参考にしますと、動画産業においては、1890年頃から劇場演劇が映画館に移り、1950年頃から映画館からテレビに移ったのは周知の事象です。また、出版産業においても、江戸末期の写本出版から木版出版に移り、明治10年頃から「明治20年問題」(著:誠心堂書店、橋口様)に記されたように木版出版から活版出版に移っています。どの移行期においても旧メディアの事業者は衰退し、新メディアの事業者に入れ替わっているのです。まあ、人間である限り、どの時代においても一世を風靡した者は、次の革新の時代において既得権益を守り乗り切ろうとします。しかし、実際には既得権益を逆に破壊しないと次の時代には乗れないのです。

 では、今回のインターネットの時代にコンテンツ産業に何が起こっているかを調べてみました。

 経済産業省の2020年2月発表の日本のコンテンツ市場調査によりますと、2014年と2018年の市場比較ですが、出版市場(書籍、雑誌、新聞、広告、デジタル配信を含む)は、3兆4500億から3兆3000億と5%減少しているのに対して、映像市場(映画、TV、DVD、広告、デジタル配信を含む)は、2兆8400億から3兆2300億と13%増加しています。ゲーム市場にいたっては、9800億から、1兆6500億に67%も増加しています。たった4年の間にこれだけの市場変化が起こったのは、2010年頃から発売され2014年頃に普及したインターネットメディアのスマフォの影響が大です。総務省の予測では、3年後の2023年は、さらに差が開いて、2014年比較で、出版市場が10%減少するのに対して、映像市場は24%増加し、ゲーム市場は114%も増加が予測されています。世界市場の比較も載っていますが、傾向は同じで、日本よりもっと加速していると言えます。

 この現象は、改めて言わなくても皆さんが感じているとおりですが、一昔前は、通勤電車の中で雑誌や新聞を読む人がほとんどでしたが、近年は,皆さんスマフォゲームやYouTube動画を楽しんでいます。どこかへ出かける時も地図帳は見ないで、スマフォのGoogle Mapで済ませますし、外国語を調べる時も辞書はめくらずに、スマフォ辞書アプリで済ませます。知らない用語も百科事典はめくらずに、Web Wikiばかり見ています。本市場調査も図書館へは行かずに、Web検索で経済産業省などのデータを調べ、目的を達成できています。現在の我々は、コンテンツ産業の大変革の中にいると言えます。

 何故そうなるかをコンテンツ産業の変革の歴史を参考にして考えますと、「次世代コンテンツの萌芽」にもありますように、コンテンツは、文字テキストの一次元的表現から、イラストや画像を駆使した二次元的表現へ進化しました。次に、動画や3Dグラフィックを駆使した三次元的表現を駆使したものに進化しました。さらには、音声や効果音を加えたものに進化しています。これを総合すると、伝達したい情報や表現したい内容が、より短時間で理解できるものに変化していると言えます。

 また、価格の面からみても、写本に比べて木版本が大量に生産できる分安くなり、木版本に比べて活版本は、さらに機械化され工数がかからない分安くなりました。活版本に比べて、スマフォの電子本は製本や配送が不要でさらに安くできます。また、映像においても、劇場映像に比べて数多く作られるTV映像は安くなっています。さらに、DVD映像に比べて、スマフォの電子映像は媒体や配送が不要で安くできます。ただ、現実には、配信コンテンツが安くなってないのは、未だ変革の途中だからと言えます。今後、配信のためにだけ作られたコンテンツが増えれば、価格はおのずと安くなります。

 以上から言えることは、コンテンツ市場も物の市場と同じで、時間と価格によって変化していると言えます。もちろん、コンテンツの本質は、情報であれば、いかに価値のある情報か、創作物であれば、いかに人を楽しませる内容であるかです。ただ、これらの貴重なコンテンツを、いかに短い時間で理解できるか、いかに安く手に入るかを実現した産業が次の市場を築けるのです。

 今、私達が携わっている、電子書籍は、従来の紙書籍を対象に作られたコンテンツ資産を生かすために、新しいスマフォというメディアに一時的に対応させただけと考えられます。前述したようにスマフォメディアは動画や3Dグラフィックを駆使し、音声や効果音を加えた表現が簡単にできます。このため、上記の2035年頃までには、もっとスマフォメディアに対応した、コンテンツ産業に入れ替わっている可能性が大です。具体的にどのような、コンテンツになるかは、「次世代コンテンツの萌芽」でも述べていますが、私どもパピレスは、コンテンツ産業の変革に取り残されないように、努力しようと思っています。