在宅勤務中の悲劇で考えたこと

2021.12.01

イーブックイニシアティブジャパン  照井 哲哉

 前回、「電子出版」が「夢」を叶えた!という見出しで、テレワークについて記述してからわずか1年余。本格的な在宅勤務にどっぷり身を浸すとは想像もできませんでした。以前、弊社創業者が電子書籍ストアはデジタル作業に特化した職種なので、「在宅勤務の夢」が叶うと述べたのに対し、その勤務形態が弊社では試験的に導入されはじめたといったのが前回の内容でした。

 世間では働き方も在宅に変わった一方、消費者需要も在宅型のニーズが高まったのは言わずもがな。もともと、電子書籍市場規模は右肩上がりに顕著に伸びてきましたが、巣ごもり需要もひと押ししたようです。インプレスの「電子書籍ビジネス調査報告書2021」によりますと、2019年度の3750億円から2020年度には4821億円、前年比で129%と市場が拡大しました。同レポートによりますと、「今後、2025年度には6700億円を超える市場に成長すると予測」するそうです。業界に身を置くものとしては、この予測を励みに業務に従事したいところです。

 ただし、予測は予測。一寸先は誰にもわかりません。新型コロナウイルスに翻弄され続けている、世界中の人々がそう痛感しているのではないでしょうか。だからといって悲嘆に暮れる必要はないと思います。凡人の私にとっては、やるべきことをやって、リターンのないリスクはできるだけ回避して結果を受け入れられればと思います。

 WITHコロナによって生活様式は変化し続けますが、人々のニーズはこの先どう転じていくのでしょう。在宅勤務はどの程度定着するのでしょうか。

 そういえば…。在宅勤務をしていると気分転換できる場所はとても貴重です。今までの在宅期間中、元も悲しかったこと。それは近所のショッピングモールにある大型書店が閉店したことです。電子書籍ストアに従事する私が言うのも妙かもしれませんが、実店舗の書店が閉店してしまうのは、歓迎できません。

 いまだに電子書籍が売れると紙書籍が売れないと一部の方に思われているようですが、そうではないと思います。紙書籍の市場規模は電子書籍より一桁上、電子書籍の売上の核はコミックの分野で、読者層も決して広範囲とは言えません。出版の中でもまだまだ限定的と認めざるを得ません。最も憂慮すべきことは、出版文化そのものの衰退ではないでしょうか。