電子復刻 良書を絶版がない世界へ

2022.05.01

イースト  下川 和男

2019年、社内にデジタルドキュメント推進室を設置し、主に1960年代から2000年代までの書籍をスキャン画像で電子化するプロジェクトを開始しました。

出版黄金期の書籍を絶版がない世界へ
この期間は出版隆盛期であるとともに、DTP以前、活版や写植の時代でデジタルデータが存在しません。出版売上のピークは1996年で良質な書籍がたくさんあります。しかし、この時代の編集者は退職され、現在の編集者は「新刊を出すこと」に忙しく、古い書籍を持たれていない版元も多いです。

「電子復刻」の仕組み
「電子復刻(一括制作)」は、裁断可能な書籍と表紙画像を提供していただき、版元の出費ゼロで、イーストがスキャン、目次テキスト設定、執筆者の権利処理、電子図書館向けの登録、売上集計までを行います。売上の40%を版元に戻し、5年後には100%が版元の売上となります。版元の皆さま、お問い合わせをお待ちしています。

3年間で6000点の制作実績
2019年からの3年間で6000点を復刻しました。その半数は「電子復刻(受託制作)」で、デジタル化や権利処理の受託も行っています。電子復刻:制作実績に一覧がありますが、現在10社3000点を丸善雄松堂様MeL紀伊國屋書店様KinoDen、メディアドゥ様、MBJ様 経由で、電子図書館やAmazonなどに提供しています。

権利処理は苦労も多いが喜びも
権利処理もイーストの負担でやるのは大変です。実務や法務のプロが必要ですが、元有斐閣の鈴木道典さんとの共同事業なので、のべ1万数千人の許諾を得ました。得られなかったのは4名のみ、それも特殊な事情です。共立出版様の31年間続いたコンピュータ・サイエンス誌『bit』の権利処理では600名の先生方から許諾をいただき、応援メッセージを多数頂戴し、励みになっています。

電子ならではのセット販売
MeL、KinoDenは学術系電子図書館なので、昭和に活躍された先生方の書籍を集め著作集を作ったり、ジャンル毎にオリジナルの選集を作るなどの作業も行っています。また川端康成学会の学会員の著作を集めた選集も制作中です。デジタルは自由度が高いので、発想次第で様々なセットが作れます。セットにした方が図書館も選書しやすくなります。学会、研究会、執筆者の皆さま、デジタル化を一緒にやりましょう。

明治時代の時事新報、東京パックも
明治から戦中までの一次資料を出版する龍溪書舎のほぼすべての絶版書籍3000点を復刻中です。その中には福沢諭吉の『時事新報(明治前期完全版)』や風刺漫画雑誌『東京パック』も含まれています。時事新報は新たに数千頁の『記事分類目録』も制作中です。

200点で毎年100万弱の支払い実績
2019年は制作だけで、2020年から販売を開始しました。2年間の実績を平均すると、200点を電子復刻させていただいた版元に毎年100万円弱をお支払いしています。倉庫や応接室に眠っている書籍が「お金を生み、デジタルで蘇ります」。倉庫を解約された版元もあります。

イーストは何の権利も持たず、社名も出ません
販売される書籍に「イースト」の名前は一切出ません。売上がイーストを経由するだけです。制作したPDFやKindle用の固定レイアウトEPUBについて、何の権利も持ちません。5年間、電子やPODなどすべての販売額の60%を頂戴するのみです。

図書館の除籍本からの復刻も
版元に裁断可能な本がないことも多く、図書館連携も行っています。先日、都下の公共図書館から2322点の除籍リストを頂戴し、訪問して天井まで積まれた段ボール箱から入手困難と思われる34点を救出しました。消滅した出版社の書籍はイーストでの復刻も行っています。司書の皆さま、除籍リストの提供などお待ちしています。

NDL入手困難資料の個人送信
そうこうしている内に、2022年5月から国立国会図書館「ビジョン2021-2025」で「入手困難資料の個人送信」が開始されます。版元が販売しているものは除外されるので「電子復刻」した書籍も個人送信は行われません。古い良書を販売し、版元や著者に利益還元する事業なので、認知度が高まることを期待しています。また、古書店が影響を受け、古い書籍の入手が困難になる恐れがあります。

実は、3期連続赤字
2019年、「3年で数万点、制作コストはかかるけど、売れたら左団扇」と思い開始したのですが、3期目もマイナスでした。原因は「賛同していただける版元が少ない」、「それほど売れるものではない」です。復刻した書籍が平均5セット売れれば収支が合うのですが、まだ到達していません。

画像版面を構造化されたテキストに
画像版面を量産していたら、2011年にJEPAで「EPUB日本語拡張仕様」を一緒に推進した村田真さんから「アクセシビリティに乏しい」との指摘を受け、構造化されたテキストをOCRなどで自動生成するプロジェクトも立ち上げました。幸い総務省の研究開発費を頂戴し、3年かけてPDFest.jpを開発中です。

みんなで、電子復刻
社会貢献的な事業で、JEPAでの36年間の活動の集大成として推進しています。JEPAでの私の活動と同様、皆様と共に歩み、この事業やノウハウの継承も行いたいと思っています。オンラインでよろしければ、何時でも、どなたにでも、ご説明します。