物怪の幸い

2023.04.01

三省堂  山本 真哉

 電子出版の業界では、最近、定期購読サービスが注目を集めています。多くの出版社が、月額料金で読者にアクセス可能な定期購読サービスを提供しており、読者は好きな時に電子書籍や雑誌を読むことができます。また、最近の傾向として、AI技術を活用した読者のニーズに合わせた推薦システムが開発されています。これにより、読者はより多様なジャンルや著者を発見できるようになります。さらに、出版社は読者の嗜好に基づいた推薦を行うことで、読者の満足度を高め、定期購読者の維持につなげています。

 上記は最近流行りの「ChatGPT」にお願いして、今回の原稿を途中まで作ってみた文章です。適当にオーダーして修正もしていない文章なので、ここからオーダーを工夫すれば、自分の筆力程度だとそこまで違和感のない文章が仕上がりそうです。しかし「まだまだAIには負けるわけにはいかん」と気持ちを奮い立たせて、ここから先は自ら書いていきたいと思います。

 というような感じで、「出版物をデジタル化の波に上手く乗せて、コンテンツとしてユーザーに届けられないか」ということについて、日々考えています。特に弊社の主力である辞書についてはアプリや電子書籍などさまざまな企業様と協力し、さまざまな形でデジタル化を図ってきました。おかげさまで最近はGIGAスクール構想による端末整備の影響で、学校向けの辞書アプリの売上も年々昇しております。

 一方で悩みの種は、学校市場以外ではデジタルといえども停滞気味であることです。電子辞書も近年は厳しい傾向になっていると聞きます。紙の辞書を多くの人が使っていた時代と同じように使ってもらうために、「いかに使いやすく」「どのような使い方が学びに資するか」という問いへの答えを出そうと悶々としています。社内皆で悩んでいるので、社名を悶々堂に変える日が近いかもしれません。

 そんな中、弊社の「明解国語辞典刊行80周年記念キャンペーン」の一環でリリースしたLINEスタンプ『三省堂辞書スタンプ』が、多くの方のご好評を賜るという喜ばしい出来事がありました。社内の有志が面白がって企画したもので、あまり売れることを想定はしていなかったのですが、かなり多くの方々にご購入いただき話題にもしていただきました。

 商品・サービスが評価されること、売上につながること自体も当然うれしい(かなり)ことなのですが、辞書スタンプを通して、知らなかったことばの意味を面白がってくれたり、共感してくれたりしてもらえたこと自体がとてもうれしかったです。ユーザビリティや機能の向上も普及のために大事だけれど、ことばの持つ面白さや可能性について、改めて実感していただくこと、楽しんでもらうことがやはりとても大事なんだと気付かされた、まさに「勿怪の幸い」な出来事でした。

物怪の幸い[もっけのさいわい]
思いがけなくやってきた幸運。「物怪」は「勿怪」とも書く。▷物怪=思いがけないこと。意外なこと。
(新明解故事ことわざ辞典 第二版)

 ちなみに『三省堂辞書スタンプ』はまだまだ好評発売中です。是非この機会にお買い求めいただき、ことばについて考え、共感していただきたいと存じます。

※明解国語80周年記念ページ
https://dictionary.sanseido-publ.co.jp/topic/meikok80/