今、『ブック・ウォーズ』(みすず書房刊)を読んでいる。本書は、社会学者である著者が、デジタル革命が書籍業界に起こした破壊と創造を膨大な資料とインタビューから論じる600頁を超える労作である。私も2006年より、電子書籍に携わり、Googleのブックサーチ問題からKindle上陸まで、本書に書かれたことをまさに前線として交渉など様々な経験をしてきた。
Googleのブックサーチ・図書館プロジェクト問題は、本書によれば、全米作家協会との裁判もさることながら、Google自身の検索エンジン戦争での地位を固める手段だったため、その地位が確立していくにつれ意味を失う。確かに、日本においても、あれだけ大騒ぎ(業界だけ?)した割には、最後は大きく報道されることもなく、収束した感がある。Googleは出版物に興味を失ったのか、事実GooglePlayブックスはシェアをそれほど伸ばしていないし、力が入っているようには見えない。しかし、現在日本では、生成AIの登場により、コンピューターへの著作物無許可取り込み放題国として、今後いや現在もおきている著作権侵害にどう対処していくかが問われている。この法律の改正は、生成AIが登場する以前で、今日の様相を想定していなかったし、できなかった。今後の文化庁や経済産業省等のガイドラインを注視していきたい。
欧米における電子書籍は、音楽産業のデジタル化とは違い、紙の書籍をとってかわることはなく、一ジャンルとしてとどまっている。音楽はそもそもそれ自体で再生されず、媒介が必要であり、コンパクトディスクというデジタルの波がすでに来ており、プロダクツから配信への道筋は速かった。そこへいくと、紙の書籍は、それ自体で完結しており、電気も何もいらない。小説の話売りなどのデジタルショートや、iPadを念頭に技術的な可能性を最大限にとりこんだ「アプリケーション」本も、話題にこそなれ生き残ることはできなかった。
しかし、日本の電子書籍はどうだろう。確かに日本もいわゆる「文字もの」の電子書籍の普及には頭打ち感はあるにはある。日本の独自進化はコミック、「まんが」である。『季刊・出版指標』(出版科学研究所)によれば、数千億円以上ある日本の電子書籍市場の9割は、その「まんが」である。文字では全く有効ではなかった話売りなどのショートや、無料施策、待てば無料などの紙媒体ではやりたくてもできなった策が牽引して市場を拡大し続け安定成長している。
また、日本では経済産業省が旗を振って立ち上げた「書店新興プロジェクト」など官民挙げての危機意識が共有されており、次の一手を打とうとしている。
そう、我々はアメリカとは違う。