メディアドゥは電子書籍取次事業(電子書籍流通事業)を主力事業として営んでおり、当事業に参入した2006年から数えて20年目に差し掛かりました。
私自身は上場企業のCFOとして機関投資家の方々との対話を務める機会が多く、初めてお話しする投資家の方からは必ずと言ってよいほど聞かれる質問があります。それは、「デジタル・ITの世界になぜ卸・中間流通が必要なのか?」ということ。
恐らく質問される投資家の皆さんにとっては、インターネットを通じて配信されるデジタルデータである電子書籍はサーバーに登録されればそのままユーザーの元に届くはずで、それなのになぜ取次という存在が必要なのか、と感じられるのでしょう。特に海外の投資家からすれば「自分の国では電子書籍取次をやっている会社など聞いたことがない」と最初から懐疑的です。
投資家の目線に立ってみるとそれも仕方がないことなのかもしれません。例えば米国と日本では出版社・電子書店それぞれのプレイヤー数や寡占度に大きな違いがあり、大手出版社のシェアが高く電子書店もAmazon Kindleが大きなシェアを有している米国と、2200社もの電子書籍を手掛ける出版社と150以上の電子書店が存在する日本とでは市場構造がそもそも違います。
日本に比べて、米国での問屋・卸の存在感は薄いと言わざるを得ません。書籍卸売の専門業者はイングラム社が唯一の存在で、以前は第2位だった Baker & Taylorは2019年にすでに書店向けの卸売業から撤退し、2026年1月までにすべての事業を終了し会社清算する見通しであることが報道されています。ペンギン・ランダムハウスやサイモン&シュスターなど大手出版社は自前の流通事業を有し、さらには他の出版社の流通業務を引き受けているほどです。
また、電子書籍取次の役割を主力事業として運営するような目立った会社もセルフパブリッシング向けのサービス以外はあまり見当たりません。当社の米子会社であるFirebrandは電子書籍のWholesale(卸)事業も手掛けてはいるのですが、これから飛躍的に成長する事業とはみなしていないのが現状です。
一方で、日本においては歴史的背景や市場構造によって、紙書籍においても電子書籍においても取次という役割が存在し、業界全体の流通の効率化やスピードアップに貢献をしています。
例えば電子書籍市場の拡大期において、米国のような一強市場ではなく、日本は多種多様な電子書店が新規参入することで大きく市場が成長しました。その背景には、各電子書店の意欲的な投資と、彼らと各出版社を結びつけ、契約や取引をワンストップで担う役割を果たしてきた取次の存在がありました。
投資家に対してどうやってメディアドゥや電子書籍取次の魅力を伝えようかと試行錯誤するなかでこうした説明をするようになったところ、このストーリーは海外投資家にとっては目からウロコなのか、「なるほどそのために取次が必要なのか」と納得し、興味を持っていただけるようになる方も増えました。
私の役割は、今後も当社の強みである日本の出版業界におけるポジションを基盤とした成長戦略を掲げ、日本のコンテンツ市場拡大に向けて当社が果たす役割を明確にしていくこと。そのためにもJEPAにおける取り組みを理解し、自社ができることを定義していく必要があります。
2025年10月時点で当社に登録されているコンテンツ数は300万超、毎月6万ものコンテンツが新たに登録されています。これだけのコンテンツ数を預けてくださる出版社の方、そしてそれを販売してくださる電子書店の方に心から感謝を申し上げるとともに、手前味噌ではありますが、この膨大な数に向き合い日々業務の効率化や迅速化への努力を続けているメディアドゥの社員を改めて尊敬しています。
そして、このコンテンツとはすなわちEPUBファイルのことを指し、40年間にわたって技術仕様の標準化、さらに利用頒布に向けた提言を行ってこられたJEPAの先人の皆様のおかげに他なりません。
私は2024年5月にメディアドゥの代表取締役副社長に就任し、このたび前任の副社長である新名新さんから引き継ぐ形でJEPA 理事を拝命いたしました。1986年生まれの私にとって、同年に創立された、いわば「同級生」であるJEPAにおいて、理事・監事のそうそうたる方々とご一緒できることは大変光栄であります。
1986年生まれというのは九星気学の「五黄土星」と十二支の「寅年」が重なる、36年に一度の強い運勢を持つとされる「五黄の寅」にあたります。野球ではダルビッシュ有、サッカーでは本田圭佑、ボクシングでは亀田興毅―――実績も注目度も高く、良い意味でくせ者揃い。JEPAもくせ者揃いかどうかは新参者の私にはまだ分からないのですが、実績という意味ではJEPAのこれまでの取り組みや功績なしに今の電子書籍市場は語れないでしょう。
心からの敬意を胸に、その一助になれるよう励んでまいりたく存じます。














