「元年」から10年、電子書籍はまだちょっと残念なところもあるけれど

2019.12.02

JTBパブリッシング  井野口 正之

 2019年も残すところあと1ヶ月。このところ言葉として聞く機会も少なくなってしまったけれど、「電子書籍元年」が2010年だったとすれば、今年、令和元年は電子書籍暦(?)10年だったのですね。

 元年から10年経って、これまで自分が購入してきた電子書籍が書店別にどんな割合になっているのかと、ふと思って、書店別の冊数を数えてみると、とりあえず上位10社でざっとこんな感じでした。

 合冊版を1タイトルに数えていたり、雑誌のサブスクリプションは含まなかったり等々あるので、あくまで大まかなイメージですが、上位3社でちょうど75%(まあ、想像していた通り「A社」はA社でしたが)。とはいえ、やはり結構バラけています。各書店それぞれのキャンペーンやクーポンなどの特典はもちろん、「このジャンル、この作家はこのアプリの書棚に揃えたい」的な好みや、見みたい本を見つけたタイミング、その場の勢い?等々の理由で、買う場所はどうしても複数にまたがってきます。

 で、改めて残念なこと、その1。

 電子書籍の商用サービスの初期から言われていたことではあるけれど、いまだに書店を横断した書棚の管理について、(いくつかの試みはあるけれど、汎用的・実用的にはまだ)実現していない。

 まあ、これは紙の本にしても同様で、蔵書がある程度以上の数になってしまうと「どこかにあったはずなんだが」はよくある話なのですが、せっかくデジタル化されてもそれが解決されずにいるというのは、(ビジネス的に難しい話であることは承知しつつも)なんとも歯がゆいのですね。まして、書棚を横断した内容の検索についてはなおさらのこと。

 そして、残念なことその2。

 上の図でカウントしていないものとしては、1タイトル1アプリの形式で販売されているアプリ型の電子書籍があります。そしてその中には、アプリのサービス元が電子書籍サービスをやめてしまったり、スマートフォンのOSのアップデートに対応されないままになっている、サービス元自体がなくなってしまった等々で、結局読めなくなってしまったものも少なくないです。

 つまり、保存と可読の問題。これは電子書籍に限らず、デジタル化されたデータについてはついてまわる話なのでしょうが、現状ではまだ紙媒体には及ばず、です(一方で、紙では入手しづらかった本が電子化で読めるようになる事例が出てきているのは、とても嬉しい動き。最近では、こちらこちらとか)。

 ちなみに、今年、自分が読んだ本について見てみたら、11月末までの時点で紙・電子併せて72冊で、そのうち38冊が電子版。つまり、半数以上はスマートフォンのディスプレイ上で読んでいたことになります(そういえば、電子ペーパーの専用端末は、ほとんど使わなくなってしまいました。これは、残念なことその3、でしょうかね?)。

 読みたい本を買おうとする場合も、(「モノ」として持っていたいという動機が大きいもの以外は)まず電子版を探して、なければ紙版を、というのが自分の中ではすでに普通の流れになっています。「元年」から10年を経て、電子書籍はまだちょっと残念なところもあるけれど、自分にとっては確実に本を読む手段として定着してきています。

 紙の代替として、つまり新しいメディアが古いメディアの模倣をしている段階を経て、新しいメディアならではの特性を発揮した姿になっていくにはまだしばらく時間がかかるかもしれません。そして、それは「本」だけの世界ではなく、ビットが混じりあうデジタル化された情報環境の中で様々なデータやメディアと絡み合いながら、の話になっていくのでしょう。

 そして並行して、自分の「本」との向き合い方も変わっていくようにも思います。上に挙げた、2019年の時点での「残念なこと」は、実はまだ古いメディアに向き合う態度から出てきたものに過ぎないのかもしれません。

 令和10年、20年、30年…に、どのような環境でどのように「本」を楽しんでいるのか、まだまだ楽しみです。