キーパーソン・メッセージ

2019.06.04

ぎこちないバトンワーク

翔泳社 田岡 孝紀

 「編集のバトンパスも上手くやらないと」
 5月に横浜で行われた陸上の世界リレー大会で、日本がバトンパスで違反となり失格し、予選敗退となったというニュースをラジオで聴き、そう思った。

 あとで調べてみたら、予選で敗退したのは、男子400メートルリレーで、日本経済新聞によると、「武器としていたバトンパスにまさかの事態が起きた」そうだ。

 もともと日本は、バトンワークが巧みで、その強みをいかして、世界大会で実績をあげているにもかかわらず、今回は思いもよらない失敗をしてしまったということらしい。

 私が勤めている翔泳社では、編集者となる新入社員は、編集部に配属される前に校閲課で研修を受ける。新卒や第二新卒の場合は半年以上、中途の場合は数か月と期間は異なるが、すべての新人を対象としている。

 ゲラや原稿をたくさん読むことを通じて、自社の本を知ってもらうというのが、この試みの最も大きな狙いである。

 翔泳社に限ったことではないことを願うが、新人編集者は、いったん配属されると、所属する編集部以外のゲラや原稿はほとんど読むことがない。そのため、自社の本に関して、意外と知らないという傾向があると思う。

 それでは視野が狭くなりがちで、自社の強みをいかした企画を立てるのが難しいのではないだろうか。

 この育成法であれば、自分たちが積み上げてきたものを次の世代に伝えることができるかもしれない。そうした発想が根底にある。

 私たちにとってのバトンパスだ。

2019.05.09

本屋が電子書籍について考えること

紀伊國屋書店  斧田 壮介

 私が紀伊國屋書店に入社したのは1981年(昭和56年)ですから、既に40年近い歳月が流れています。どうにか大学を卒業したものの、ロシア文学などという就職とまったく無縁の学科の専攻だったこともあり、まともな就職活動もせずに(できずに?)ぶらぶらとその日暮らしをしていた3月のある日のことです。たまたま見ていた朝日新聞の求人欄に「書店員求む!委細面談」の3×5㎝くらいの小さな求人広告を発見して、「本屋なら本も好きなだけ読めそうだし、働いてみるのも悪くないかな」というような、極めて安易な気持ちで応募してみました。簡単な筆記試験と数度の面接はあったものの、どういう訳か即採用ということになり、その年の4月から新宿本店の店頭での勤務を始めたのでした。そんな入社の事情だったこともあり、今でも会社に就職したというよりも、会社にどうにか拾って貰ったという感覚が強くあります。

 以来約40年、海外勤務の10年も含め各地を転々としましたが、ごく僅かな期間を除けば、私は基本的に書店の店頭で働いてきました。紙の本を売ることでずっとメシを食って来たと言えます。生来堪え性のない私が同じ会社で40年間働き続けてこられたのは、やはり本屋という仕事にそれなりの楽しさとやりがいを見出せたからだと思っています。本屋で働いているうちにいつのまにか抱くようになった「たかが本屋、されど本屋の気概を持って働こう」という気持ちは、今でもまだ私の胸の奥に残っています。

 さて、そんな紙の本の世界にどっぷり浸かっていた私が、1年程前に突然電子書籍の関連部署の担当責任者ということになりました。これはまったく予想外のことで、電子書籍についてはほとんど門外漢、右も左も分からない知識ゼロ状態からの出発でした。そこで、まずは「習うより慣れよ!」ということで、その日から当面は紙の本を読むことを止めて、それまでほとんど経験の無かった電子書籍での読書に全面的に切り替えることにしました。ともかく自分で徹底的に使ってみることで、電子書籍の良さも問題点も明確に見えてくるのではないかと思ったからです。

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