キーパーソン・メッセージ

2017.01.10

アナログとデジタル

凸版印刷 田原恭二

 会社に入ってちょうど十年ぐらい経った三十代前半のころ、日本語をもっと深く味わいたいと落語を聴くようになった。そのころはいわゆる“大人買い”をするだけの経済的な余裕はなく、当時生協で扱っていた六代目圓生の落語のCDを、毎月の天引きで少しずつ買い集め、コツコツと全巻を揃えた。CDで100枚以上にもおよぶこの圓生百席は、いまでも手元にあり大事にしているが、私にとって圧巻であり、昭和の名人の呼吸やぴりりと張り詰めた空気さえ感じとることができる、いまも聴くとゾクゾクする宝物だ。

 鳥よ鳥よ鳥たちよ♪ 2017年が明けて初詣帰りのラジオでは、杉田かおるさんの懐かしい唄が流れている。興味深いことに、近ごろまたAMラジオやレコード、カセットテープといったメディアが再評価され、ファンがじわじわ増えているようだ。これらは、情報技術を活用した利便性や合理性の発展とは別に、人間性の満足度が新たな価値として求められていく現れではないかと思う。もっとも最近のラジオなどはさらに進んでいて、インターネットからでも聴けるようになり、昔でいう“ハガキ職人”などに変わって、SNSと連携した番組とリスナーとの即時的なコミュニケーションなども取り入れられていて面白い。思うにこれからのコンテンツサービスは、圓生師匠のような臨場感溢れる名人芸やさまざまな作品が、染み入るように味わえる技術が求められるのではないだろうか。

2016.12.05

「十年一昔」ですが、まだ「始まったばかり」ですから

JTBパブリッシング 井野口 正之

私事ですが、実は今年は、私が電子出版に関心を持ち始めてちょうど10年という年でもありました。
10年前、何がきっかけだったかといえば、ケヴィン・ケリー(Kevin Kelly)のエッセイ「Scan This Book!」を読んだことだったのですね。
…で、それから10年後の今年。電子出版をめぐる環境も10年前(当時はKindleもまだ登場していなかった!)とは大きく変わった2016年、ケヴィン・ケリーは新刊「THE INEVITABLE」(不可避なもの)を出版しました。日本語訳も「〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則」として発行され、話題になったので、ご覧になった方も少なくないと思います。

同書では、大きく変化しつつあるテクノロジー/環境のトレンド、<不可避な>変化が、「BECOMING」、「COGNIFYING」といった12のキーワードに沿ってさまざまな具体的事例とともに語られていて(「SCREENING」というキーワードでは「本」についても主題的に描かれています)、いずれも刺激的なのですが、中でも印象的だったが、全体を包括する12番目のキーワード「BEGINNING」。デジタル化されたテクノロジーがもたらす大きな変化に対して、「われわれは<始まっていく>そのとば口にいるのだ。もちろん、この<始まっていく>ことはまだ始まったばかりだ」。

5年後、10年後、あるいは50年後(それでも「紙の本」の歴史に比べればほんの1/10!)から今を振り返ってみれば、まだ変化は始まったばかりで、「未来」の当たり前はこれから創られていく、今はまさにその始まりのタイミングだ、という考え方には勇気づけられます。

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