“辞書”のメディアとの相性のよさを想いながら

2018.02.02

三省堂  神藤 利章

 電子出版の黎明期からその一翼を担っている辞書コンテンツは昔からメディアとの相性がよかった。一般書籍が冊子として運用されているときもそうであるように、紙の辞書もインデックス仕様の下で優れて機能している。近年、辞書コンテンツは紙はもとより、PC、スマートフォン、携帯電話、ゲーム機、TV等のデジタルデバイス上で運用されるソフト、アプリ、Webなどの、どのメディアとも相性がよい。

 当社の辞書コンテンツに関する自社事業や協業事業だけをとってみても、関係先や取引先の新製品の発売や新たなプラットフォームのサービスインに合わせて同時期にリリースされた電子出版物が結構多いことに今更ながら気づく。そういったことからも“辞書”は多くの利用者から求められていることもあり、新しいメディアに早期に載せて欲しいと望まれているコンテンツの1つなのだろう。

 この20数年間のこととして思い出される数々のイベントへの当社のジョイント事例のうち、ムーブメントに初動から乗せることが叶ったものをここにいくつか紹介しておきたい。(敬称略)

①Microsoft Windows95搭載の各メーカー製PCの発売に合わせた、EPWING版の『スーパー大辞林 CD-ROM』(マルチメディア版) や『模範六法 CD-ROM』(年次版) 等々 [1995年]
②NTTドコモの「iモード」のサービスインと最初のiモード端末501iシリーズの発売に合わせた、iモード公式コンテンツ『三省堂辞書』配信サービス [1999年]
③インターネット普及の立役者であったポータルサイトのうちNTT-X(現NTTレゾナント)が取り組んだ「goo辞書」のリリースに合わせた、Web版の『大辞林』『コンサイスEX英和・和英辞典』 [1999年]
④Microsoft IME 2000のリリースにほぼ合わせた、かな漢字変換に連動した国語表記辞典ソフト『ザ・完字変換』 [2000年]
⑤ブロードバンド元年と言われたその年のYahoo!BB等のADSLサービスの幕開けに間に合わせた、『三省堂 Web Dictionary』配信サービス [2001年]
⑥パナソニックのTV用インターネット・サービス「Tナビ」のオープンに合わせた、『辞書 on TV』(イースト製) [2004年]
⑦任天堂の「ニンテンドーDS」の発売にほぼ合わせた、『DS楽引辞典』ソフト(任天堂製) [2005年]
⑧iPhone3GとAppStoreの日本上陸に合わせた、iOS『ウィズダム英和・和英辞典』アプリ(物書堂製)[2008年]
⑨NTTドコモが国内販売していた「BlackBerry」の法人向け販売のサービスインにほぼ合わせた、BlackBerryOS『ウィズダム英和・和英辞典』アプリ(オムロンソフトウェア製)[2010年]
⑩KDDIのアプリ取り放題「auスマートパス」のサービスインに合わせた、Android『大辞林』アプリ(イースト製) [2012年]

 また、辞書コンテンツが最初からハードに組み込まれた仕様の、スキャニング方式や音声認識方式などの創意工夫を凝らした様々な辞書引き専用デバイスに関しては、その中でもとりわけIC型電子辞書は、検索・表示能力や操作性などのマルチメディア化した高度な機能と携帯性・堅牢性などに優れた筐体を兼ね備えていることから、技術的進歩や商業的価値が素晴らしいものであるということを付記しておく。

 さて、近い将来の社会を思い描く中で、スマホアプリの次に訪れるメディアのトレンドが何であろうと、その新しいメディアに上手く乗り込める最初の出版コンテンツは“辞書”なのだろうと考えている。