インプレスグループでは、2012年からAmazonのプリント・オン・デマンド(POD)を活用した、在庫を持たない紙書籍出版に取り組んできました。現在では、私が所属するPUBFUNで、数百社の出版社が発行するPOD対応書籍の取次を行うまでに事業が拡大しています。
Amazon PODに代表される「書店型POD」の最大の特徴は、デジタル印刷機と製本機を使い、注文があるたびに1冊から印刷・製本して出荷できる点です。大量印刷より1冊あたりのコストは高くなりますが、在庫を持たずに紙書籍を販売できるという大きな利点があります。
しかし書店型PODは、読者からの注文後に製造するため、電子書籍と同じ「注文後提供型」の商品形態になります。さらに製造仕様や販路の制約もあるため、多くの出版社にとって紙書籍の主流な流通にはなってきませんでした。出版社が本当に求めているのは、個別注文に依存しない、出版社主導でコントロールできるPODなのです。
近年では、講談社やKADOKAWAなどがデジタル印刷による小ロット印刷を活用し、在庫の適正化や需要に応じた出荷を実現し始めています。良い事例として注目が集まっていますが、デジタル印刷さえ使えば出版業界の課題がすべて解決するわけではありません。
PUBFUNがPOD取次を行う中で気づいた最大の障壁は、出版社が印刷用データを持っていないケースが多いことでした。重版未定になった書籍をAmazon PODでロングテール商品として扱うには印刷用データが必須ですが、古い組版データしかない、印刷所にデータが眠ったまま、などの理由で参加できない例が少なくありません。これは、小ロット重版でデジタル印刷を使う場合でも同じ問題が起きることを示しています。
これらの課題は、初版の段階から「重版はデジタル印刷を使う」前提で製造仕様を設計すればある程度解決できます。しかし、この方法は既刊本の重版には適用できないため、すぐに解決できない点がもどかしいところです。
Amazon PODを含む、これまでのデジタル印刷を使った出版の経験から考えると、これからの紙書籍には「返品されない最適な出荷」を実現するための製品設計が求められます。大量印刷→大量出荷→大量返品→改装→再出荷といった従来のサイクルは、デジタル印刷時代には無駄が多く非効率です。書店には必要最低限の部数だけ置き、売れた分だけ補充し、返品を最小化することが重要になります。その極致が、注文ごとに印刷・製本して出荷するAmazon PODの仕組みといえるでしょう。
電子書籍登場時、紙書籍と異なる表示結果になること、完全な実売売上であること、セール時の割引販売など、多くの出版社は葛藤しながらも取り組んできました。商品形態は現在のものと似ているものの、デジタル印刷時代の紙書籍は従来と同じアプローチで取り組んでは十分な効果はえられません。出版社は企画立案から製品仕様、在庫管理、販売方法など、大量印刷前提で作られていた現状業務を見直し、最適出荷に適した形態への変革が求められます。