もうそろそろ1年になりますが、昨年2月20日のJEPA総会において、レファレンス委員会(デジタル辞書)の活動休止を報告しました。その翌月には、一般社団法人ビジネス機械・情報システム産業協会(JBMIA)のモバイルシステム部会(電子辞書・電卓)も活動を終了したようです。示し合わせたわけではありませんが、デジタル辞書を取り扱う業界団体の専門委員会・部会が相次いでなくなってしまいました。レファレンス委員会活動休止の背景と、デジタル辞書を取り巻く状況について、ちょっとだけ整理してみたいと思います。
まずはJBMIAモバイルシステム部会による「電子辞書出荷実績推移(1996-2023年)」を見てみましょう。コンパクトな辞書専用端末を対象とした調査です。以下に、国内出荷実績の推移グラフを引用します。

2007年の280万台463億円をピークに、2022年は38万台78億円まで数字を下げています。JBMIA統計委員会による「事務機械の2024年会員企業の出荷実績」を参照すると、2024年ではさらに28万台57億円まで落ち込んでいますね。昨年2月(JEPAレファレンス委員会活動休止報告の前週!)に、カシオ計算機が電子辞書の新規開発中止を発表してニュースになりましたが、市場の急速な縮小がその理由として挙げられていました。スマホの普及(2008年~)や教育現場でのPC・タブレット利用の拡大(2020年~)などが、(電子辞書の)市場の縮小に拍車をかけたとされています。
次にJEPA(レファレンス委員会)による「デジタル辞書の年度別販売実績推移」を見てみましょう。個人ユーザの(有料)辞書アプリダウンロードの実数を調査したものですが、2008年のiPhone国内発売(ソフトバンク)から2013年のNTTドコモによるiPhone取り扱い開始まで、ダウンロード数を概ね大きく伸ばしていて(2012年の落ち込みはauスマートパスの影響と思われます)、先に見た電子辞書市場縮小が2008年から始まっていることとも合致するように見えます。ですが、2008~2013年の電子辞書国内出荷台数の減少は99万台。その間のアプリダウンロード実数の増大は23万DL。単純比較できるものでもありませんが、スマホの普及を主たる原因とするだけでは、十分な説明ができません。そして、その辞書アプリ自身も、2014年以降はそのダウンロード数を減らしています。

2021年以降のGIGAスクールを背景としたライセンス販売数(緑色)の伸びは、このグラフの中では救いです。ちなみに、2020~2024年の電子辞書国内出荷台数の減少は47万台で、その間の教育機関向けのライセンス発行数の増大は21.5万。微妙。電子辞書の市場縮小の一因ではあるでしょうが、やっぱり根本的な原因は他にあるような気がします。そして、GIGA端末の配布・稼働数に対してライセンス発行数≒ユニークユーザ数(27万)はまだまだ少なく、教育現場での辞書コンテンツニーズの低さが懸念されます。学生ユーザは無料の辞書アプリに流れているのではないか? いや、そもそも辞書を引かなくなっているのではないか? 紙の辞書に回帰している?…うん、それはなさそう。
以上のような、環境を問わない市場規模の継続的かつ急速な縮小を背景にして、技術開発やビジネスモデル構築といった分野での動きも停滞してしまいました。JEPA設立時に“電子出版”の代名詞でもあったCD-ROM辞書(1985~)、フルコンテンツ収録の電子辞書(1992~)、マルチメディアPCの登場とバンドルコンテンツ(1995~)、携帯電話への辞書標準搭載とi-mode(1999~)、オンライン辞書サービスの充実(2000~)、スマホアプリの登場(2008~)…など、これまで多くのエポックメイキングな動向がありました。これに続くものがなかなか見当たらないという状況なのです。
このような状況下でこそ、業界団体の専門部会としては踏ん張りどころだったはずです。しかし、市場縮小に伴う事業撤退と寡占化進行の状況下で、電子辞書メーカーやマルチメディアPC(辞書バンドル)メーカーが軒並みJEPAを退会済であったことは痛手でした。デジタル辞書ビジネスのプレーヤーの多くが現状JEPAに加盟していないという現実のなか、レファレンス委員会はほぼ出版社中心の構成となってしまい、情報共有や意見交換の幅が狭まってしまいました。JEPAの強みであった、業界横断的な活動・仕掛けができなくなってしまったのは残念です。出版社中心の委員会活動では、“デジタル辞書”を云々する以前に、コンテンツの供給源たる“紙の辞書”の出版体制維持についての切迫した状況が感じられました。JEPA会員社に限ることなく、広く、辞書を取り扱う出版社や編プロなどを対象にした情報共有と意見交換の場を模索した時期もあるのですが、JEPAの中では難しい事情もあり成果を出せませんでした。
そして昨年、“デジタル辞書”を主軸に据えた通年活動には限界ありと思い至り、レファレンス委員会の活動休止を申し入れて承認された次第です。これらの経緯をまとめて説明しておく必要をずっと感じていましたが、もう1年経ってしまいました。“デジタル辞書”に限らない形で、いろいろと考えてはいたのですが、参画中の某プロジェクトの事情もあって、思うようにJEPAへのご奉公が実現できていません。それでもまたいつか、辞書・レファレンス分野がJEPAの重要な活動のひとつとして復活することを夢見ながら、日々の仕事に追われています。
追記:レファレンス委員会はなくなりましたが、「デジタル辞書の年度別販売実績推移」調査はJEPAとして継続しています。