オリンピック観戦の醍醐味のひとつは、逆転劇をみることができることだと思う。
ミラノ・コルティナ2026オリンピックは、見応えのある試合が多い大会だったが、逆転劇という観点からすると、フィギュアスケートが見どころ満載だった。
なかでも女子フィギュアスケートで金メダルを獲得したアリサ・リュウ(Alysa Liu)選手が、試合後にインタビューで語っていたスケートに対する向き合い方や「失敗も物語の一部(だから負けではない)」という哲学に関する一連の発言が心に響く。
“What I like to share about myself is my story and my art, my creative process, and I guess messing up doesn't take away from that. It’s still something, it’s still a story. You know, a bad story is still a story, and I think that’s beautiful. So there’s no way to lose.”
「私が自分自身について共有したいのは、自分の物語やアート、そしてその創造的なプロセスです。たとえ失敗したとしても、それによって価値が損なわれることはありません。それもまた一つの経験であり、物語の一部なのです。たとえ『悪い物語』になったとしても、それは物語であることに変わりはなく、私はそれを美しいと感じます。だから、負けることなんてあり得ないのです。」
(https://www.olympics.com/en/milano-cortina-2026/news/alysa-liu-on-her-journey-and-her-art-i-want-to-share-that-creative-process-exclusive。日本語訳はGoogle Geminiを利用)
“Medals do not validate me in any way... It's not the way I validate myself. I give myself validation when I'm able to create, whether it's on the ice or in a dance room or through something I love.”
「メダルが私を証明したり、肯定したりすることは決してありません。それは私が自分を肯定する方法ではないのです。氷の上であれ、ダンスルームであれ、あるいは自分の愛することを通じてであれ、何かをクリエイトできたとき、私は自分を肯定できるのだと感じます。」
(https://www.olympics.com/en/milano-cortina-2026/news/winter-olympics-figure-skating-women-alysa-liu-first-american-woman-gold-24-years。日本語訳はGoogle Geminiを利用)
※リンク先は変更されることがあります。
JEPAが開催するセミナーのなかでも著作権委員会が主催している著作権セミナーは、毎回四、五百人以上が参加する大人気のコンテンツである。
昨年は、出版ビジネスに精通した知財法務のエキスパートである村瀬拓男弁護士、山崎貴啓弁護士、大出萌弁護士といった講師陣が、出版業界の最新動向を踏まえ、実務に役立つ講義を行い、新しい講師として、出井甫弁護士も『著作権法+αの視点で考える!―出版業界における生成AIの導入とリスク管理』と題したセミナーで登壇した。
この講義が秀逸なのは「本講義で掲げる理想」が示されたからだ。
・生成AIのリスクを受容可能な水準で管理する
・生成AIのメリットを最大化する
・それを継続できる仕組みを設計し、運用する
解説は生成AIの技術的構造の話題からスタートした。まず、大規模言語モデル(LLM)が「次に出現する文字の確率を予測する」という仕組みであることが説明され、特定の外部情報を参照させるRAGや追加学習の手法であるLoRAなど、知識として身につけておきたい技術について、出版に携わる実務者の視点に立って整理された。
編集の実務における活用場面として、企画段階の下書きやアイデア出し、制作過程における校正・ディレクションから、マーケティングや読者分析、翻訳、表紙・挿絵のデザイン案作成に至るまで、多岐にわたる説明があった。これらの利便性の裏側に潜むリスクについても、具体的に定義されたのが興味深い。
学習段階における適法性を定める著作権法30条の4の解釈から、出力段階における類似性・依拠性の問題、人格権への配慮、炎上リスクなどのレピュテーションリスクが示され、国内法に留まらず、EUにおけるAI法や米国での学習データ開示法制の動向など、国際的な潮流の中で捉える必要があることが強調された。
講義のなかでも強く印象に残ったのが「法的にセーフであっても、社会的にアウトという領域がある」という判断基準である。
出井弁護士の講義に背中を押され、私は海外版権契約における海外の版元との交渉にAIを積極的に活用することにした。
海外の版元との交渉は、相手の母国語が英語ではない場合、こちらが日本語で作成した契約書の条文を英訳し相手に提示して、相手が英語を母国語に翻訳して検討をし、母国語で作成した修正案を英訳して、こちらに要望を伝えてくるという効率的とは言えないプロセスをたどる。そのため、これまではどうしても細部で妥協や曖昧さを残したまま進めざるを得ない側面があった。
そこで、相手の要望を翻訳したり、要望を精査するための調査、条文の再検討にAIを利用することにしたのである。
活用し始めた直後は、相手の要望がスピーディーに把握できる反面、なぜその条文にこだわるのかという背景を推察するのに苦労するなど、それなりの試行錯誤を繰り返した。しかし、粘り強く交渉を重ねた結果、双方が納得できる形で契約を締結できた。
それまで実績のなかった国へ版権を販売することも決まり、気がつけば、AIをツールとして使いこなすことに自信を深めていた。顔の見えない相手との条件交渉でトラブルが起きると、つい焦りを感じてしまいがちだが、自分のペースを乱さず、じっくり対処していけば必ず解決の糸口が見出せる。そのことを、実務を通じた経験から学ぶことができたからだと思う。
ディズニーがOpenAIへの巨額投資とライセンス契約を発表し、2026年初頭からSoraなどで公式キャラクターの利用が可能になることが報じられた(https://openai.com/index/disney-sora-agreement/)。これは、著作権保護を最優先してきたディズニーがAIを積極的に活用し、収益化を図る方向にシフトした象徴的な出来事である。
出版界では、ここまではっきりとしたAI活用の動きはまだ端緒についたばかりかもしれない。しかし、失敗を恐れてAIを遠ざけるのではなく、法的なリスクと社会的なリスクを適切に管理し、AIのメリットを最大化して、知的財産の価値を高めることができれば、出版界にとってのピンチをチャンスに変える逆転劇の鍵となる。